ベビー・ピーの旅芝居 2019
『ラプラタ川』
そのカメラで、よかったら私たちのこと、眼差してくれないかな?
Quiero comprobar la última 'mirada' de Ken.
20世紀初頭、ブラジルに移住した日本人たちがいる。
港で奴隷商人に騙され息子を攫われた母親は子を追って内陸へ向かうが
川のほとりで彼女が目にした光景は……
移住者たちが、季節の巡りも植物も風景も違う中で謡い伝える、土地の記憶の物語。
人々が描いた幻想たちが今、海を越えて夢から呼び起こされる。
【作・演出】根本コースケ
【出演】松田早穂、柳原良平、紙本明子(劇団衛星/ユニット美人)、小林欣也、ほん多未佳(和風レトロ)、根本コースケ
遠くにいきたいという気持ちが私のなかには常にあって、それがなぜなのか、いつからなのかは、よくわからない。けれど、最初に、それを、自覚的にひろげてくれたのは、映画だったように思う。千葉の我孫子で育った私は、中学生のとき、友だちと、はじめて柏を越えて、ぴあを片手に有楽町の映画館に行った。それはマスではないメディアがあることを最初におしえてくれた時間だったようにも思う。大都市の片隅に存在した、小さなメディア(映画/館)によって、私は、世界の広がりと深さを知った。
遠くにつれていってくれる、マスではないメディアのちから。きっとこのあたりのところに絡まって、存立している。我々の、テントも、芝居も、人形も、旅も、この物語も。
夏から秋にかけての宵に、あなたの近くの街に、ベビー・ピーのテント芝居が、参ります。
どうです、遠くへいってみませんか。
根本コースケ
2017年9月14日、自分のやっているお店(胡桃堂喫茶店といいます)でベビー・ピーの公演がありました。あんまり好きじゃない感じのお芝居でした。声大きいし、一本一本が長いし、意味わからないし、女装が気持ち悪いし、たっぷり二時間半、見てるこっちがヘトヘトになりました。見てるだけなのに。圧倒的に無駄な熱量、汗くささ。でも終わって、5人のことを好きになっていました。
主宰の根本コースケさんの、公演に際しての〈ごあいさつ〉を読んだときに、その理由が少し分かった気がしました。「白樺って、白樺なんだ」。「キツネは、キツネだ」。そういうことを感じるために旅をしている、と。
そんなこと(失礼!)のために、2か月半もかけて、北は旭川から南は鹿児島まで、ハイエース1台に役者とか荷物とか積み込んで、1回1回全力投球の公演を45回くらいやるという。絶望的なまでのコストパフォーマンスの悪さ!(笑)
でも、その道を愚直に行くからこそたどり着ける「人って、人なんだ」、「世界は、世界だ」というまざまざとした実感。世界の実在感。そうか、彼らは現代の松尾芭蕉なのかもしれない。
考えてみれば、ぼくらはそういうことをこそ疎かにしてきちゃったのかもしれないなって思います。要領よく、効率よくで、世界を分かった気になってしまってる。薄っぺらな、実感のない言葉ばっかりやり取りしてる。
はっきり言って、今回の公演も、あんまり見に行きたくありません。だって、ヘトヘトになるのが目に見えてるんだもの(笑)でも、2年に一度くらいならいいかな。いや、2年に一度くらいは彼らに会いに行きたいな。
得られるものなんて何もないかもしれない。でも空に向かって全力で「ウォー」と叫ぶような、心ふるえる生き方がほんとはあるんだってことを、思い出させてもらうために。
影山知明(クルミドコーヒー・胡桃堂喫茶店 店主)
1973年西国分寺生まれ。大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家を建て替え、多世代型シェアハウスの「マージュ西国分寺」を開設。その1階に「クルミドコーヒー」をオープンさせた。2017年には2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」を開業。出版業や書店業、哲学カフェ、地域通貨、田んぼづくりなどにも取り組む。
著書に『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(大和書房)
遠くへ行きたい、そんな理由で旅に出てはいけません。それなのに彼らはまた旅にでるそうだ。夏から秋にかけて、北海道から鹿児島まで。トラック一台、ワゴン車一台で巡るらしい。僕らの時代は、地球は隅々まで探検されつくし、地底人がいないことも、月の裏側に何もないことも明らかになった。なのに今、旅に出ようとする彼らは好奇心に満ちている。ひと昔前の探検家のような姿だ。この日本の町々に、まだ見ぬ珍しいモノや新種のヒトがいることを確信している。類は友を呼ぶ。遠くへ行きたい人は、ベビーピーを発見し、ベビーピーに発見されよう!
ごまのはえ(劇作家・演出家)
ニットキャップシアター所属。最新作は8月31日~9月2日まで『チェーホフも鳥の名前』を伊丹アイホールで上演。
ベビー・ピーターさんたちへ
根本コースケ氏を初めて見たのは、劇団「どくんご」の公演『OUF!』で、そのとき彼は、脚立の上から最前列にいた私の娘に「ウェンディちゃん!」としつこく呼びかけ、小学生の娘を大いに引かせたピーターさんであり、うちではピーターさんの台詞「セクシーを諦めない!」がその年の流行語となった。そんな彼の劇団ベビー・ピーの公演を観に行くようになり、なんと拙作『かめくん』を人形劇化して旅公演までしてくれたのだから、縁というのはけったいなものだ。それが今回は、テントで旅に出るという。いやあ、いいですねえ、とはとても言えない。それがどれだけ大変なことか、くらいは想像がつくし、そんな想像を絶するものであろうこともまた想像がつく。だから、旅立つ彼らに私が言えるのは、これだけだ。 君たち、どうかしてるよ。 でもまあ世の中、どうかしてる人たちがいるから、どうかしてない我々がおもしろいものを見ることができるのだ。ありがとう、どうかしている人たち。そして、どうかしている君たちに、この【ほぼ百字小説】を送ります。
* 【ほぼ百字小説】(1657) 旅をするテントもある、というより、もともとそういう生き物か。でもテント単体では不可能で、取り込んだヒトに様々な役を振り分けることで旅立てる。旅先で他のテントと出会うこともある。テントもヒトも良い旅を。
北野勇作(小説家)
1962年生まれ。主な著作『じわじわ気になるほぼ100字の小説』『かめくん』『カメリ』
決してそんなことはないはずだが、本当に満足を得られる演劇体験はテント芝居しかないのではないか。劇団どくんごとベビー・ピーのお芝居を見ていると、必ずそのうちそうとしか考えられない時間が訪れる。それはそのぐらい他ではできない体験なのだ。
まだ中編だった「ラプラタ川」を初めて見たのは2年前(2017年)の春だった。その複雑なあらすじをここでつぶさに説明するのは難しいが、京都三条「ライト商會」の小さな空間が奥へ奥へと連なるように劇世界が広がっていった光景はよく覚えている。復興期の日本からパラグアイに渡ったかつての移民を訪ねて、日本から南米へ、現代から数世代前へ、時空を飛び越える旅が紡がれた。
大学で映画について学んでいた私は、舞台の俳優は映画の俳優でなくカメラに近い役割を持つと信じていた。「ラプラタ川」にはまさにそれが当てはまる。大人が子供を演じ、女性が男性を演じ、日本人がラティーノ・ラティーナを演じる。俳優たちは必要に応じて次から次へと演じるキャラクターを変え、観客を物語の奥へと誘導する真摯で雄弁な語り手となる。俳優たちは特定の役柄を超えて、物語全体を協力して観客をその奥へと誘う語り手となる。
スケールアップした「ラプラタ川」がまた私たちを飲み込む時間がやってくる。それを想像すると今から楽しみでならない。それはきっと私たちの人生もまた見えない語り手に紡がれる物語に変わる体験となるはずだ。
伊藤元晴(批評家・編集者)
批評旅行誌「ロカスト」編集部。批評誌「エクリヲ」編集部。第3回ゲンロン新人賞で小説「猫を読む」が東浩紀賞受賞。
※記載情報は7月15日現在のものです。
また、料金や開演時間などは各地で変更がある場合もあります。
お出かけの際は各地連絡先、または劇団窓口にて必ずご確認ください。
一般 前売:2,500円 当日:3,000円
中高生 前売:1,500円 当日:2,000円
小学生 前売:500円 当日:1,000円
小学生未満 無料
※一部会場によって料金が異なる場合があります。
WEB予約 チケット予約フォーム
Mail laplatagawa2019@gmail.com
Tel 090-2896-5429(柳原)
【作・演出】根本コースケ
【出演】松田早穂、柳原良平、紙本明子(劇団衛星/ユニット美人)、小林欣也、ほん多未佳(和風レトロ)、根本コースケ
【美術】渡辺泰子
【造形】吉村聡浩
【衣装/仮面】松田早穂
【小道具】鐡羅佑(nosB/トイネスト・パーク)
【音響/システム設計】三橋琢
【照明】真田貴吉
【舞台監督】平林肇
【舞台監督補佐】小西啓介
【演出助手】森脇康貴(安住の地)
【スペイン語監修】佐々木祐
【山ぐるみ/イラスト】山さきあさ彦
【広報物作成】秋本真生(劇的集団忘却曲線/nosB)
【撮影】松山隆行
【制作】岩木すず(トイネスト・パーク)、徳山まり奈、首藤慎二、ベビー・ピー
【宣伝美術】生方友理恵
【web】門脇俊輔
京都芸術センター制作支援事業 / 協力:芸術準備室ハイセン
【Special Thanks】
チエミニ、えちぜん鉄道、福井県演劇連盟、劇団ドラゴンファミリー、くらしの一座、勝山市青少年室、上田進一(舞台写真家)、野外人形劇団のらぼう、marsmoo、平井紫乃、ブックスはせがわ、たびのそら屋、restaurant uoni、道東管隊、熊﨑崇朗(演劇集団タカクト)、ポケット企画、かわはらまみ、仲野圭亮(劇団words of hearts)、ナガムツ、ヤシマミホ、ワタナベヨヲコ、武田賢介、喫茶こん、大西邑子、河野数子、劇団エゴイスト、福士正一、青森演劇鑑賞協会、空間シアター アクセプ、へも、西和恵(和風レトロ)、伊藤文恵、岩村空太郎、永田和也、小見純一、坂川善樹、武藤大祐、cafe&guesthouse 灯り屋、首藤夕香、鳴海琢元、石川卓磨、6.5/w、新藤江里子(劇団子供鉅人)、ものがたり文化の会ねもとパーティ、柏BAR619、いのちの洗濯劇場、平埜香里、外山恒一、我々団、陣内幸史郎、長沢暁、長沢哲、山崎加代子、ながさき雪の浦手造りハム、すみれ舎、平岡京子(劇団鳴かず飛ばず)、舩倉弘恵、Corner pocket、なかひらじゅんこ、じんぜんじゅカフェ、もりたうつわ製作所、楽市楽座、T.C.散歩人、泰山咲美、utaco drip、劇的集団忘却曲線、nosB、水田美月、トイネスト・パーク、ぬるり組合、マタヒバチ、劇団どくんご
(順不同・敬称略)
2017年の旅芝居では、私たちは各地各所の屋根の下、軒先をお借りして公演してきました。
2019年、今度は野外へ飛び出し、テント公演を行います。各地の公園、広場、河川敷、その土地土地の、よりパブリックな場所で、道行く人の目に留まる場所にテントを設営し、馴染み深い景色の中に劇空間を立ち上げます。
俳優兼スタッフ6名が、自らの手でテントを建て、その土地その土地の景色をお借りしながら、劇を上演していきます。同じ作品がそれぞれの土地の息遣いを吸収し、当初とはまったく違った表情や奥行きをみせるような、人が地域や分野を越えて繋がっていくような、そんな旅芝居を日本各地にお届けしたい。
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